恩田陸『蜜蜂と遠雷』
「これはもう私の中で2016ベストワンに輝いた作品で。これはあるあのピアノコンクールを舞台に、あのいろんなコンテスト……まあコンテスタントって呼ばれるコンテストに参加する人たちが、ピアノコンクールを勝ち抜いていく、ことを書いた物語なんですけど。
まあ〜素晴らしい点がたくさんありまして。
ピアノの世界が舞台なんで私たち分からない単語とか分からない文化とか、すごいたくさん出てくるんですけど。なんか読めるんですよ、とても自然に。情報の出し方が多分とても考えられていて、分からない言葉がパッて出てきても、その周辺の単語がきちんと説明されてたりとかするから、変に注釈とか全然なくても、ピアノの難しい世界が読んでいくうちに分かる。
あとコンクールの話なので、ピアノを弾くっていうシーンがとにかくたくさん出てくるんですよね。それって、書き手からしたら結構難しいじゃないですか。どう伝えていいか難しいし、何度も同じようなシーンが出てくるから書き分けるのが難しいんですけど。もう多分計20回以上出てくるピアノを弾くっていうシーンの手触りが全部違って。
あぁ〜天才だな〜って、こう、読みながら思ってしまうんですよ」
「悔しかった?」
「もうね〜死にたくなっちゃうよ」
「えー」
「死にたくなっちゃうんだ?」
「どうしよう……。これで直木賞獲ると思う、次の」
「プレゼン上手やな」
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』を読みました。単行本を買うのって久しぶりだなあ、最後に買ったのはたしか『雪月花黙示録』。実は雪月花、まだ開いてすらいなくて……すごく装丁が凝っていたので思わず買ってしまった。
今作は中の文章が二段組になってるタイプの単行本です。私はこの二段組、「本を読んでる!」って感じがしてすごく好きなんですけど、調べてみると読みやすくないと感じる人が多いのかしら。
頭の会話文は、オードリー若林がMCを務める『ご本、出しときますね?』という番組でのやり取り。悔しいけど面白かった一冊というテーマで、『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウが『蜜蜂と遠雷』の名前を挙げた。言われてるとおりプレゼン上手だし、私がだらだら書くよりよっぽど興味を掻き立てると思うので書き起こしちゃった〜。
恩田陸の過去作品で一番近いのはやっぱり『チョコレートコスモス』かなあ。蜜蜂はピアノコンクールが舞台で、チョココスは演劇のオーディションが舞台。プレイする者、プレイする者に着く者、それを審査する者の複数視点なことも近いと思う。
でも、私は読んでいて他の作品の要素というか、面影を感じたなあ。たとえば音楽という点では『光の帝国 常野物語』に収録されている「国道を降りて…」。あとは『麦の海に沈む果実』『ブラザー・サン シスター・ムーン』も思い出したし、『蒲公英草紙 常野物語』も! 多分、恩田ファンにもそう? と思われてしまいそうだけど……。
ちょっと終わりはあっさりだけど、消化不良があるタイプではない。そういうところもチョココスに似てる。
この人の作品の魅力って、気味の悪さ・気持ち悪さとか、不安にさせる感じとか、そこだとは思うんですよ。でも蜜蜂は“陽”の作品。『ネバーランド』で光浩が背負った過去も、『六番目の小夜子』のハラハラする文化祭も、『麦の海に沈む果実』の影と不気味さも、この作品にはない。
言ってしまえば直木賞候補に相応しい、一般受けの作品。前も候補になってるんだよねえ、今年こそ獲ってほしい、いつ発表だっけ?
そういえば、帯に「青春群像小説」と書いてあった。この人の書く青春小説ほんとに好きだなあ、あまり作品数がないけど。なのですごく楽しみになった反面、これは国際ピアノコンクールの話。高校生活・大学生活の物語じゃないのに青春小説? もしかして、帯のせいで期待はずれな気持ちを抱いてしまうのかも。なんて思った自分の浅ましさを呪いたい……ちゃんと私の好きな青春小説だった。
コンクールなので予選通過者発表のシーンがあるんですが、先の展開が目に入っちゃうのがこわくて……。単行本にはさまっていたハガキで先の文章を隠しながら読んでました。
どんどん止まらず読んでたのに、残り50ページを切ると「終わっちゃう! 終わりたくない」とつい口に出していた。
映画『闇金ウシジマくん Part3』
9/25に映画『闇金ウシジマくん Part3』を観てきたよ〜。
ウシジマくん映画を観るのは初めてで、ドラマシリーズはこの前まで放送してたSeason3しか知らないけど。
『闇金ウシジマくん』とは、闇金融を営むウシジマくんとそこに関わるいろんな人たち、それをとり囲む闇社会を描いた犯罪作品だよ!
ドラマシリーズSeason3を見てウシジマくん全然出てこないじゃんって思ったのを覚えてる。
マジで全然出てこないし、話の中心になるメインキャラとも全然絡まない。
紛いなりにも主演であるウシジマくんが全然出てこないって映画大丈夫なの?
と思ったら映画は結構しっかり出てました。
なぜなら話の中心となるキャラクターがしょっちゅうウシジマくんの営む闇金融「カウカウファイナンス」にお金を借りに来るから。
ドラマSeason3のほうは、終盤になってやっとウシジマくんが接触して「困ってるなら金貸すよ」って言ってたんで……。
映画『闇金ウシジマくん Part3』で中心となるのはキャバクラにお金を注ぎ込みまくるサラリーマン、そしてネットビジネスで成功を目指す青年。
映画を観たいと言いつつ普段はあまり劇場に足を運ばないくせになぜ珍しく行ったのかと言えば……暇だったからなんですけど……。
朝イチで見ました、まあ10時からなんですけど……。
山田孝之、綾野剛、マキタスポーツなど結構好きな演者が前から出演している『ウシジマくん』シリーズなんですが、興味を持った最大の鍵はなんと言っても映画のゲストキャラたち。
まず、ネットビジネスで成功を目指す青年を演じるのは本郷奏多くん。
そういえば大ヒット上映中の『君の名は。』でキャストを務める神木隆之介くんと似ているとよく話題になりますが、個人的には俳優としても声優としても顔も本郷くんの圧勝です(余談)。
そして新人タレント役は白石麻衣さんです。
失礼、間違えました。
いや〜、2人とも美形美白で絵になりますね……。
お二方の画像を載せたことで当記事は私のブログ史上もっとも美しい記事となっております。
あ、あとリーマン役はオリラジ藤森。
さて、『ウシジマくん』といえば闇社会を舞台とした作品。
風俗どころか闇風俗すら朝飯前です。
ドラマシリーズでは、元akb48スーパー研究生と言われた光宗薫さんが結構キツい役をやってました。
そんな『ウシジマくん』に登場する新人タレント役……CMではバスローブ姿……もしかして
と危惧する必要性はゼロ、新人タレントの枕営業なんて展開もなくあの作品では断トツの安全役だったのでは? と観ていて思った。
本郷くんと白石麻衣さんのキスシーンなんて絵になること必至! ドキドキ! と思っていたのですがキスシーンですら序盤でかなりあっさり終わっちゃいました。
まあキスシーンもその後の2人でいるシーンも全て絵になる美しさだったので文句はないですが。
ちなみに本郷くんは食事すら出来ればしたくないレベルの潔癖症でキスシーンもなかなか苦痛らしいです。高ポイント。
『ウシジマくん』シリーズは結構人を選ぶ描写が多いと言われていて、私が見たドラマシリーズSeason3も納得の内容だった。
しかも演者さんの演技があまりに上手いので役と一緒に嫌いになりそうだった……もちろん褒め言葉だし、あの演技はすごい。
期待半分、白石さんがどんな役を演じたか怯え半分で映画にもそれくらいを想像してたけど、映画はドラマとは別ベクトルの闇社会でした。
よく言えば映画は多くの人が見に行きやすい内容、悪く言えばあまり怖くないホラー映画。
ドラマが毎週楽しみな内容だった分、映画なのにこんなもの? って気持ちが結構あった。
とは言っても、人を選ぶ描写が『ウシジマくん』の全てでないので脚本は面白かったと思います。
闇社会を彩る(?)個性豊かなキャラクターが多く、中でも浜野謙太さん演じる怪しい金持ち・天生翔(かける)、公式サイトに名前がなくて分からないんですが沢村真司(本郷くん)の同級生が見ていて結構面白いキャラだったなと思います。
特に浜野謙太さんは、私の中でNo.1名脇役だと思ってるほど演技が見ていて面白い演者さんなのでイチオシ。
また収拾のつかない内容となってしまった『ウシジマくん』面白かったです~動員増えろ~。
貫井徳郎『乱反射』
久々に小説を読了しました。
中途半端に読んで放置している本はたくさんあるんですけどね……最後にちゃんと読んだのは貴志祐介の『黒い家』と小池真理子の『墓地を見おろす家』だと思います。
家シリーズ。
Amazonのとある特集ページで紹介されていて興味を持った貫井徳郎の『乱反射』。
Amazonで知ったのだからもちろんAmazonで買いました、近所の書店を回ったけど見つからなかったわけじゃないよ、ホントホント。
『乱反射』は週刊誌の連載小説で、09年に朝日新聞社から出版されました。
特に関係ないと思うけど今作の主人公の職業は新聞記者です。
ちなみに主人公と書きましたが、今作は9人の視点で物語が進みます。
1つ前に感想を書いた『428 〜封鎖された渋谷で〜』みたいな感じ。
そういえば、あっちの主人公は加納でこっちの主人公は加山って名前だ。
『428』は誘拐犯を逮捕する、雑誌原稿の締め切りを守る、……など個々にさまざまな目的があり、それを達成しつつ全体のシナリオとしては渋谷の街を守るというHAPPY ENDを目指すもの。
こちらは逆というか……それぞれの些細な自分勝手な行動が重なり、殺人事件というBAD ENDを招いてしまう。
たとえばビニール傘を借りパクしたとか、赤信号を渡ったとか、歩きスマホをしていたとか、誰でも一度は身に覚えがあるような、警察に見つかっても注意や少しの罰金で済まされるような些細な違反行為。
あの3つに該当するものがなくても、何か1つくらいは思い当たる行動が誰にもあるのでは?
それを誰かに指摘されたら、それが殺人に繋がったんだと言われたら?
自分は悪くないって言うよね?
あなたが傘を一度だけ借りパクしたせいで人が死んだんですよ、と言われてハイごめんなさい! とはならないよね?
たしかに自分勝手な行動だし理由だけど、人殺しとして責められるほどの謂れはないって思うんじゃない?
そんな些細な自分勝手を責められるほど、相手は完璧超人なのかって逆に怒るんじゃない?
前置きがめちゃくちゃ長くなってしまいましたが、『乱反射』すごく面白かったです。
それぞれの些細な行動、何となくここが鍵になるんだろうなと検討はついてました。
ドミノ倒しのようにどんどん迫ってくる殺人の瞬間、不明瞭だった行動の繋がりがやっと見えた瞬間。
私には爽快感としか言い表せないんだけど、この小説に「爽快感」という言葉は不釣り合い。
なぜなら、自分がこの殺人に加担してしまう可能性が全くないと断言できないから。
今まで殺人に加担してきたことはないと断言できないから。
もしかしたら自分も殺人の片棒を担いでしまっているのかも、と後ろめたさを感じずには読めなかった。
昔読んだ小説にこんな台詞があったのを思い出しました。
仕事が細分化されると罪悪感が消える。
「たしかに自分勝手な理由だけど、人殺しとして責められるほどの謂れはない」ってまさにこのこと。
逆に、過程が細分化されたからこそ誰かを殺人犯だと責めることも出来ない。
そして、自分も些細な違反行為をしてきたからこそ相手を責める権利はない。
些細な自分勝手が殺人に繋がってしまった人を犯人だと責めるなら、過去に些細な自分勝手を行ったこの自分も犯人の一人であると。
だからって些細な自分勝手を肯定する小説ではない。
些細な自分勝手が殺人という壁にぶつかったとき、責任転嫁や開き直りなどの四方八方に乱反射してはいけない。
己の自分勝手さを認めて償え、というのが『乱反射』の伝えたいことなのかなと思いました。
結局これを殺人と言えるのか?
死んでしまった子供も、自分勝手が連鎖した人たちも、ただの不運だったのか?
いや〜連鎖ってこわいね、人間は無責任だね、社会って怖いね〜!
特集ページで『乱反射』と書いた人のセンスに脱帽です。
普段はあまり内容に言及する感想は書かないんですが珍しく書いてみました。
読んで分かるようにとっ散らかった乱文になってしまうのが苦痛で……文章構成上手くなりたいね……。
内容に言及しない感想を最後に書いておきたいと思います、雨宮天さん1stライブ大阪、優勝。